第四十四話「幸せ未来計画」
 4月になった。
 桜が咲き乱れ、新たな出会いが訪れる季節。
 聖城大学にも新入生が大勢入り、各々サークルは新入生をひとりでも多くゲットしよう
と様々な作戦を考える中、柳華達演劇サークルも新入生歓迎公演の稽古をしていた。
 その休み時間中、
「ここ最近煉の帰りが遅い。最近あいつの愛!を感じない!」
 柳華は向かいに座る世羅に愚痴をこぼした。
「いきなりですね」
「だって聞きなさいよ! 最近あいつってば夜中の2時に帰ってくんのよ、2時よ? 連
絡のひとつもよこさないし、そそれに恋人同士のコミュニケーション……だ、抱きしめて
も、キキキキスだってしてくれないし……」
 言ってから恥ずかしくなって柳華は両手で顔を覆った。
「キスとかは置いておきまして。そんなに遅くて呪いの方はよろしいのですか?」
「あ〜それなんだけど、全世界ケンカ事件の時にミュウが放出した白い光が呪いを相殺し
ちゃったみたいなのよ」
「そうだったんですか」
「うん。……それからなんか煉との絆が薄くなった気がして不安なのよ」
 柳華はため息を漏らした。
 もう煉は自由の身なのだ。10時間以内にわざわざ自分の前にやってこなくてもいい。
リミットを気にせずどこへだって行けてしまう。
 急に愛想尽かして消えてしまうかもしれない。
「煉様に限ってそんなことありませんわ」
「あたしだってそう思いたいわよ! けど、けど何で急に帰りが遅くなったのか訊いても
答えてくれないんだから不安になったって仕方ないじゃない!」
 メンバーの目が向くのも構わず柳華は大声で叫んだ。
 不安で不安で心がどうにかなりそうだった。好きだから、本当に好きだから何でも話し
てほしいのに…。視界が滲む。いつの間にか涙が零れていた。

 そのまま顔を俯かせて泣く柳華を見て、世羅はある決意をした。

 その日の夜、世羅は演劇サークルのメンバー、雫、雪華、森也、ヒーロー同好会のメン
バーを泉家が運営しているレストランに招集した。
「皆さん、一大事です!」
 テーブルを叩いて世羅は立ち上がった。
「いったい何が一大事なんや?」
「はい。実は煉様と柳華先輩の仲に亀裂が生じました」
「なんだって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?????」
 全員が耳を塞ぐほどの大声で森也が叫ぶ。
「まさか彼が他に女を作ったんじゃあ──ゴフッ!」
 森也は雫の拳をうけて昏倒した。
「煉がそないな事するわけないやろが!」
「正確に話してくれないかしら?」
「はい。どうやら最近煉様のお帰りが遅いそうなのです。2週間前から帰宅時間がいつも
夜中の2時だとか。理由を訊いてもお答えしていただけないそうでして。その事で先輩は
酷く不安がっていますの」
「またあの孤児院って線は?」
 ファールピンクこと友香の言葉に世羅は首を横に振った。
「ニーナちゃんに確認をとりましたが違うそうです。煉様の帰りが遅い理由は現在南に調
べてもらっているのでそろそろ……」
 と、見計らったように携帯が鳴った。
「はい」
『私です。煉様の帰りが遅い理由が判明いたしました』
 南の報告にしばし耳を傾ける。
「わかりましたわ。とりあえず監視は怠らないように」
『承知いたしました』
 通話が切れる。ボタンを押して世羅は小さくため息を漏らし、
「煉様らしいですわ」
 苦笑しながら呟く。
「いったいどうしたんや?」
「煉様が浮気という線はなくなりました」
「そやろそやろ」
 満足そうに雫が頷く。
「そこで私は提案いたします! 頑固で口の堅い煉様の口を割らし、なおかつ先輩と煉様
の絆をより一層強いものにするための計画……幸せ未来計画を!」
 テーブルの上に置いてあったリモコンのスイッチを押す。天井からスクリーンが、地面
からプロジェクターがでてきた。
「これが今回私が考えた作戦ですわ!」
 別のボタンを押す。巨大スクリーンに作戦内容が映し出された。
「どうでしょうか?」
「うふふふ。面白いわ。世羅さん、貴女は音響よりも脚本が向いているようね。これなら
我がサークルも有名になり、さらにはあの二人の仲も……私は賛成よ」
 と、演劇部部長こと沢渡綾那。
「任せや! 煉の幸せの為やったら何だってやるさかいな」
 と、雫。
「柳華……兄ちゃんは頑張るぞ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「お前出番ねえだろうが」
「うっ。……いいよいいよ、兄ちゃんは応援団長するから……ちぇ」
 と、復活した森也と雪華。
「これでアタシらヒーロー同好会の名も大学中に知れ渡るってもんだわ」
「長かった……」
「これでテレ夜の日曜朝枠もオレ達のもんっすね!」
「うっっっっっっっっっっっっっっっっっっしゃぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
「感無量ってこういうことなんですか」
 と、友香・翔・慎治・有樹・明弘達ファールチーム。
「聖城大学の歴史に残るような素晴らしいものにいたしましょう!」
 一同を見渡して世羅は叫ぶ。
「おおーーーーーーーーーーっ!!!!」
 全員が答え、高らかに手を挙げた。

 思惑は色々ありながらも、30人を超す人々がひとつの目標に向かって進み始めた。

 後日、世羅は作戦事項を柳華とミュウにも伝えた。
「ま、マジでそんな事するの?」
 計画内容を聞いた柳華は目を丸くさせる。
「はい。先輩だってこのままではお嫌でしょう?」
「そ、そりゃ……」
「ミュウはレンとリュウカがラブラブしてる方がいい〜♪」
 柳華の隣でヨーグルトを食べていたミュウが言う。
「その通りですわ」
「でもそんなにうまくいくか──」
「いかせるんですわ!」
 柳華の声を遮って世羅は叫んだ。
「先輩は煉様が好きなのでしょう? ずっと一緒にいたいのでしょう? このままでは嫌
なのでしょう?」
「う、うん」
 小さく頷く柳華。今まで見たことのない頼りない先輩を、世羅は優しく抱きしめる。
「でしたら努力しませんと。先輩に待つ女なんて似合いませんわ」
「リュウカはゴーゴーレディ〜♪」
「そ、そうよね! 落ち込んでたって仕方ないじゃないの! よし、その提案のったわ!」
 離れた柳華はいつもの元気で、素敵な先輩に戻っていた。世羅とミュウは顔を合わせて
一緒に笑う。

 そして、幸せ未来計画の決行日がおとずれた……。


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