エピローグ
「今日はここまでね」
 そう言ってミュウは本を閉じた。
「えぇ〜〜〜!! なんでなんで〜! だってまだまださきがこ〜〜〜〜〜〜〜んなにい
っぱいあるよ〜!」
 膝の上に座っていた幼精─愛娘のレンが頬を膨らませた。
「明日は絶対にお寝坊できない日なのよ。遅くまで起きていてお寝坊しない自信ある?」
「あう。で、でもでもでもす〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っごくきになる〜〜〜! きになって
ねられないよ〜〜〜〜!!」
 駄々をこねるレン。まるで昔の自分を見ているようで可笑しかった。
「仕方ないわね。それじゃあ子守歌代わりにお話してあげるからベッドにいこうね」
「うん♪」
 暴れるのをぴたりとやめたレンは小さなベッドにもぐりこんだ。
「ねえねえ、さっきのつづきだけど、ママとふたりはいっしょにくらしたんだよね?」
「そうよ。初めて3人が出会ったあの時雨荘のお部屋でず〜っとね」
 言いながらあの懐かしい部屋を思い浮かべた。
 今頃あの二人は何をしているだろうか…。きっとあの二人のことだから口喧嘩しながら
もお互いを思い合って幸せに過ごしているに違いない。
「なにかおもしろいことあった? ねえねえ、あったんでしょ?」
 瞳を輝かせてレンが訊いてくる。
「ええ。あの本に書ききれないほど色々あったのよ。楽しいこと、嬉しいこと、それに悲
しいことや辛いことも……。でも、みんなとっても大切な思い出」
 目を閉じれば今も鮮明に思い出せる二人との思い出。本当に色々な事があった。さっき
レンに読み聞かせていたのはその思い出の一部を書き記したものだ。煉や柳華、出逢った
様々な人達との思い出の証…。
「たとえばどんなことあったの〜?」
「う〜んそうね〜。パパがママを追いかけて外界に来た事かな」
 後ろの方で何かが倒れる音が耳に届く。
 笑みを漏らしながら振り返ると、予想通りシェザールが椅子につまづいて転んでいた。
目が合うと彼は恥ずかしそうに顔をあからめる。
「へぇ〜。なんだかガイカイにいくのがたのしみたのしみ〜♪」
 レンが言う。
 そう、明日からレンは外界へ行く。今日は長老様より試練を与えられていた。試練内容
はレンしか知らない。いったいどんなものなのか、難しくはないのか少々不安だった。
―― お母さんも私が行く前日はこんな風な思いだったのかな
 きっとそうだろう。お世辞にも幼い頃の自分は頭もよくなかったし危なっかしかった。
「でもママみたいにやさしいひととあえるかな〜。みつかってもおいだされたりしないか
な〜…しんぱいしんぱい」
「ふふっ。そんなレンにプレゼントをあげる」
「プレゼント?」
「そう、これよ」
 ミュウは小瓶をレンの枕元に置いた。
 中には青い光の粒子が入っている。幼い頃に自分も母からもらった呪いの小瓶だった。
ただ違うことは10時間が経過してしまっても死ぬことはなく、呪いが消滅してしまうよ
うにしてある。
「もし本当に優しい人と出会えて、絶対に離れたくないって思ったらこれをその人にふり
まきなさい」
「ふりまくとどうなるの?」
 ミュウは笑顔を浮かべて、言った。

「その人と楽しい思い出がいっぱい作れるはずよ」

 でもね、呪いはきっかけに過ぎないから…。
 その人に好きになってほしかったら自分もその人を好きでいないとダメなのよ。
 たとえその人が自分を嫌っていても、好きで居続けていればきっと心を開いてくれる。

 諦めないで、忘れないで……。

 好きでい続ける心を、勇気を、強さを……。

 もしその想いが届いたとき、あなたには強い絆ができることでしょう……。

 離れられなくなるほどの想いと共に……。

 あなたにもそんな絆がきっと……。


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