第二十七話「計画発動!A・昴の影」
 温泉旅行当日。雲ひとつない青空は絶好の旅行日よりだった。
「わぁ〜わぁ〜はやい〜♪ くるまよりはやいよ〜♪」
 初めての新幹線にミュウは窓に張り付いては流れる景色を見てははしゃいだ。そんなミ
ュウを見て柳華と煉は顔を見合わせて笑う。
 旅行の予定はまず集合。集合は現地の水沢駅に11時となっていた。新幹線で2時間の
場所にあるそこは温泉地として有名だ。
 レグナットとフェリスはいない。後で転移魔法を使って来るという。水鏡の自動監視魔
導器のテストをおこなうかららしい。
 そんな訳でいつもの3人での行動となっていた。
「実は新幹線に乗るのあたしも初めてだったりするのよね」
 ミュウと同じように窓に張り付いていた柳華が言う。
「実は俺もだ」
「そういえば頭の傷は大丈夫なの?」
「もう痛みはない。円もほぼ完治したと言っていた」
 包帯が取れたのは昨日だった。ひょっこり現れた円に診察を受けたら大丈夫だと太鼓判
を押されたのだ。
「だけど頭じゃない。ホントのホントに治ったの? ちょっと見せて見なさいよ」
「別にいいって」
「いいから、ほら!」
 有無を言わさず頭を引き寄せる柳華。渋々ながら煉は身を任せた。
「確か……この辺よね」
「まだか?」
「髪の毛が邪魔ですぐにわかるわけないじゃない」
「早くしてくれ」
「わかってるわよ。少し大人しくしてなさいっての」
「ミュウもみる〜♪」
 二人して頭を調べ始める。やれやれと煉は膝の上に頬杖をついた。
「う〜ん、ホントに傷は塞がったみたいね」
「バッチリオ〜ケ〜♪」
「わかったらさっさとどけ」
「はいはい。さってさて……」
 煉を解放した柳華は鞄から旅行雑誌『マップリ〜』を取り出す。
「まずどこから行こっか? む〜お寺や博物館ばっかりじゃない。あ、水沢ラーメンは食
べてみたいかも」
「ミュウもラーメンたべたい〜♪」
「ねえねえどこ行く? やっぱ最初はラーメンに決まりよね?」
「勝手にしろ。ふぁ〜〜〜今日は朝が早かったから少し寝る。駅に着いたら起こしてくれ」
 大きな欠伸のあとゆっくりと煉は目を閉じる。

 眠りにおちた煉が柳華の肩に身を預けたのはそれから間もなくだった。

 その様子を見られていようとは2人とも思ってもないだろう。
「う、羨ましいことしよって〜〜〜っ」
 小型モニターに映し出された2人の様子を見て雫が地団駄を踏む。
「今のところは計画は順調に進んでいますわね」
 世羅はニッコリ笑った。
 ここは煉達が乗っているつばさ号の最後尾車両。2人をこっそり見守るために車両をひ
とつ貸し切りしたのである。
 乗客は世羅・雫・雪華・南、そして森也と鈴城だけだ。森也と鈴城の2人は前の方で呑
気にお茶をすすっている。
「このままうまくいけばいいのだけれど」
「そうですわね。あ、南さん、きちんとこの映像は録画しておいて下さいね。もちろん1
0本ほどダビングですわ」
「そうおしゃると思いましたので10個のデッキを使い同時録画しております」
「大変ナイスですわ」
「恐縮です」
 恭しく一礼する南。
「映像を録画して何に使うのかしら?」
「はい。お二人の結婚式で使おうかと」
 雪華の問いに、世羅はそう答えた。
「よく結婚式の披露宴でお二人の思い出をスライドにして見せますでしょう?それを映像
にしようと思いまして。うふふ、きっとお二人とも赤面すると思いますわ」
『結婚……』
 雫と森也が同時に呟く。2人は俯いてぷるぷるしばらく身を震わせていたが、
「姉さんは認めへんで〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「やっぱり兄ちゃんは認めないぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 同時に立ち上がって叫ぶ。世羅はやれやれと肩をすくめた。
―― お二人がくっついたら、次はこの方達を説得しなければなりませんわ
 あの2人をくっつけた後でもまだまだ問題山積みだと世羅は大きなため息を漏らした。

 水沢駅にやってきた煉と柳華は近くのラーメン店に姿を消す。後を追っていた昴は今ま
でにない憤りを感じていた。
「いったいどうなってるんだっ!」
 近くに転がっていた空き瓶を蹴り飛ばす。
 昴は自分だとバレないよう変装し、2人の後をつけながら隙を見て罠を仕掛けていた。
しかしどういうわけか仕掛けた罠が作動しなかった。ひとつならまだしも全部だ。
―― 誰かが僕の邪魔をしているというのか! 腹立たしい!
 こうなれば罠ではなくて直接狙うしかない。だがあの男はそう易々と排除できないだろ
う。
―― なら彼女を手に入れるまでだ
 必ず2人が離れる時がある。狙うのはその時だ。
「ああ、その時が待ち遠しい。やっと、やっと僕は満たされる時がやってくるんだ」
 クスリと笑い、昴は普通の客として店に入った。
「うわっ。これホントに美味しいじゃない。ほら、食べてみなさいよ!」
「わかったから騒ぐな」
 すれ違いざまに交わされた2人の会話。チラッと柳華を見ると、彼女は素敵な笑顔を浮
かべていた。
―― この笑顔を僕にも向けてくれる。彼女は僕が好きなのだから、この男から離してしま
えばきっと……。
 席に座った昴はじっと柳華だけを見続けた。


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