第十一話「騒ぎは年末にあり?」
 12月31日……大晦日。
 世界中が年明けの準備をしようと奔走する中、煉はベッドの上で荒い息をもらしていた。
「……風邪ね」
 体温計を見て柳華は言う。液晶には38.0℃と表示されている。完璧な風邪だ。
「だいじょうぶ〜?」
 ミュウが心配そうに煉の顔を覗き込む。
「体に……ち……からが……入らん……はぁはぁ……」
「当たり前よ。今日はバイト休んでゆっくりしてなさい。店長には風邪で動ける状態じゃ
ないってちゃんと言っておくから」
「むぅ………金が……」
 眉根に皺を寄せる煉。
「悪化して入院でもしたらお金がいっぺんになくなるわよ」
「む……」
「ゆっくりしてなさい。煉の世話はミュウに任せるから」
「らじゃ〜♪」
 布団の上で敬礼するミュウ。
「なにか食べたくなったら冷蔵庫にレトルトのお粥あるから。ミュウが作ってあげるのよ」
「うい!」
「んじゃ、いってきま〜す」
 身支度を整えた柳華は久しぶりにハイテクニクスへと向かった。

 大晦日といえど電気屋に休みはない。年末年始はかきいれどきなのだ。バイトも同じで
ボーナスがでる。煉が渋ったのもボーナスが減ることが原因だった。
「風邪じゃあ仕方ない。彼には色々働いてもらってるし、柳華ちゃんをストーカーから守
ってるんだから疲れも溜まったんだろうね」
 出社した柳華が煉の事を伝えると、店長はうんうんと頷いた。
「はい?」
 思わず柳華は聞き返した。
「ストーカーだよ。秋頃から彼ってば四時あがりになったじゃないか。理由を聞いたら柳
華ちゃんがストーカーに狙われているから迎えに行かなきゃいけないって言われたのさ。
その頃から柳華ちゃんも来る日数が減って心配していたんだ」
「は、はぁ……どうもご心配おかけしまして」
「もうストーカーとは決着ついたのかい?」
「え、あ、ええ。煉のヤツがボコボコにしてからは二度と被害にはあってません」
 適当に思いついたことを言って納得させる。事務所を出た。笑いがこみあげてくる。嘘
をついた理由が可笑しかった。煉と一緒に暮らすようになって3ヶ月だが、今まで一度も
嘘を言われたことがない。彼自身嘘が嫌いと豪語している。
 だからあんな似たような嘘を吐いたのだろう。自分の為というのが本当でストーカーの
部分が嘘。でも、少し嬉しい嘘だった。いや……嘘じゃない。
「秋頃からいつも守られてばっかりだったしね」
 大学祭の時も、誘拐事件の時も……煉は守ってくれた。だけど気がかりがひとつあった。
―― どうして守ってくれたんだろう
 大学祭の時は言ってくれなかった。誘拐事件の時は呪いの事といないと静かすぎて嫌だ
と……。
「なにやってんの?」
 肩を叩かれて柳華は飛び上がった。社員の中村孝輔はそれを見て苦笑している。
「あ、いえ、ちょっと考え事を……あはは」
「そろそろ朝礼だから早く来た方がいいぞ」
「あ、はい」
 答えて中村が店内に出て行くのを見送ると、
「……ふぅ。考えても仕方ないか」
 いくら考えてもわかるはずもない。そう結論して柳華も店内に入った。程なくして朝礼
を終えて開店。……年末商戦の火蓋が切られた。

 酷く寒い。掛け布団は十分にかけている。どうやら思ったより悪性の風邪らしい。
「ふるえてるけどさむいの〜?」
 ミュウの声。目を開けると心配そうな顔で布団の上に座っていた。
「なにかしてほしいことない〜?」
「む〜……寒い……」
「え〜と……う〜んと……たしかだんぼうはのどにわるいからだめだってリュウカいって
たし〜、なにかないかな〜」
 ふわりと浮かび上がったミュウは部屋のあちこちを探し回る。
「あ、これならだいじょうぶかな」
 置いてあったホッカイロを手に戻ってきた。貼れるタイプだ。
「ちょっとまってね〜。うんしょ……うんしょ……」
 布団の上でホッカイロの封を開けるミュウ。
「いれてあげるからふとんあげて〜」
「うい……」
 煉は力を振り絞って何枚も重ねてある布団を上げて体との隙間を作る。そこからミュウ
が布団の中に入った。
「ぺたぺたっと……おっけ〜」
 ホッカイロを貼り付け終えたミュウが布団から出るのを確認して脱力。たった数センチ
布団を持ち上げただけなのにえらく疲れた。目を閉じてホッカイロが暖まるまで待つ。
 が、いつまでたっても暖かくならなかった。むしろさらに寒くなってきた。終いには視
界がぼやけてくる。
「む〜……これはマ…………・ズ…………イ」
 呟いた数秒後、煉は昏倒した。

 <ハイテクニクス>の年末商戦は大好評だった。おかげでレジは大忙し。昼休みに入っ
た時には疲れてヘトヘトになっていた。事務所に入った柳華は長テーブルに突っ伏した。
「もう〜ダメ。なんで大晦日に電気屋なんて来るのよ」
「こらこら、そんなこと言わないでくれよ。ここ最近ライバル店が増えてきてお客も減っ
てる。もしお客が来なくなったら君への給料もでないんだよ」
 机に向かって作業していた店長がため息混じりに言う。
「そりゃあまあ……わかってますけど」
 少しくらい忙しいことに愚痴を言いたかった。電話が鳴る。忙しいためかなかなか取ら
れない。店長もパソコンと睨めっこしたままだ。仕方ないと柳華が受話器を取った。
「はい、ハイテクニクスです」
 営業用の声に変えて応対する。
『リュウカいる? レンがたいへんたいへんたいへんなの〜〜〜!!』
「ミュウ?」
『リュウカ? レンがとってもたいへんなの! なんかさっきよりくるしそうでね、あせ
いっぱいかいてるんだけどさむいさむいって……ミュウはびょうきのことわからないから
どうすれば……うえぇぇぇぇぇぇぇん!』
「落ち着きなさいよ。体温はいくつなの?」
『いまはかってる。あ、おわったみたい〜』
 少しの間。
『えっとね、えっと……40.0℃ってかいてある』
「40℃!?」
 思わず柳華は大声で聞き返す。隣にいた店長が大声に驚いて椅子から転げ落ちた。
『う、うん。どうしようリュウカ〜』
「すぐに帰るから! それまでちゃんと煉のヤツ見てるのよ、いいわね!」
 言い終えた柳華は叩きつけるように受話器を置くと、身につけていたエプロンをテーブ
ルに投げ捨てる。
「おいおいどうしたんだい。なにが40℃なのか説明を……」
「いま電話があって煉のヤツが40℃の高熱らしいんです。んなわけで早退しますから!」
 店長の答えを聞く前に柳華は事務所を出た。即座に自転車の鍵をあけて時雨荘へ向かう。
「バイトなんか行くんじゃなかった」
 単なる風邪だからといって甘くみていた。こんなことならバイトに行かず看病していれ
ばと後悔の念が柳華を苛む。
「大晦日に小さな診療所なんてやってるわけないから救急車呼んで大きな病院に連れてい
くしかないわね」
 全速力で自転車をこぎながらも冷静に計画をねる。恐らくは一日二日は入院になるだろ
うから着替えの準備とか、あと雫に知らせた方がいいだろうか。いちおうは肉親だし。
 時雨荘が見えてきた。階段近くに自転車を乗り捨てる。後ろで自転車が倒れるけたたま
しい音は気にしない。
「ミュウ!」
 鍵を開けて部屋に入った。
「リュウカ〜!」
 涙を浮かべたミュウが頬に飛びついてきた。
「あれから変化は?」
「わかんない」
 柳華は煉に近寄った。顔中汗だらけで息も異様に荒い。即座に柳華は受話器をとった。
「……お……おい……」
 煉が半身を起こした。
「ちょ、ちょっと寝てなさいよ!」
 受話器を置いて柳華は煉を寝かせた。
「ど……こへ……かけようとしている」
「どこって、診療所なんてやってないから救急車を呼ぼうとしたのよ」
「やめろ……治療費と入院……で金がかかる」
「あのね! お金と命どっちが大事なのよ! それにお金だったらあたしが払っても−」
「いいからやめろ!」
 柳華の声を更に上回る大声で遮った。そんな煉の態度に怒りを覚えたが、いまは怒って
る場合じゃない。
「だったらどうしろっていうの。このままじゃ死んじゃうのよ」
「円を呼べ」
 円とは月影家が雇っている女医のことだ。以前誘拐事件の時に手当してもらったことも
あり彼女とは面識がある。
「だけど連絡先知らない」
「俺の……携帯に登録……してある」
 柳華はコタツの上にあった携帯電話を取ってメモリーを検索する。すぐに円のメモリー
は見つかった。

「風邪ね。あとは少しばかり疲労が溜まっていたんだと思うわ。解熱剤の注射を打ったか
ら熱はすぐに引くでしょう。でももう少し遅かったら肺炎も併発して危険な状態なったに
違いないわ。3日は絶対安静よ」
 やってきた円は打ち終わった注射器をしまいながら診断結果を言った。電話をして状況
を伝えると彼女は『すぐに行く』と言って通話を切り、言葉通り5分でやってきた。
 住所も教えていないのにどうやって、しかも5分という短時間で来られたのかが不思議
だったがあえて追求はしなかった。
「それにしても煉君も凄いわね。40℃っていったら意識が混濁して喋るなんてできない
はずなのに。よっぽど病院が嫌なのかしら」
「なんかお金使うのが嫌みたい。入院したらお金がかかるって。あ、そういえば治療費は
いくらになりますか?」
「いいのよ。料金は月影の本家からもらっているから」
 円は立ち上がり、
「これがお薬。食後30分以内に飲ませて。もしまた何かあったら連絡ちょうだいね。光
の速さで駆けつけるから」
 言うだけ言って部屋から出ていってしまった。
「もうだいじょうぶなの〜?」
 黙って枕元に座っていたミュウが訊いてくる。
「そうみたい」
 さっきまで辛そうだった息も穏やかになっている。汗もそれほど出ていない。注射が効
いてきたのだろう。
「それにしてもなんでそうお金に執着してんのかしら」
「しりたいならミュウがカガミさんにおねがいしてあげるよ〜」
 カガミさんとはミュウの呼び出す魔法の鏡のことである。柳華も一度しか見たことはな
いが、記憶や心を覗くことができるらしい。
「ダ〜メ。人の心を勝手に見るっていうのはいけないことなのよ。もしそんなことしたら
ヨーグルト無期限おあずけとお尻100叩きだからね」
「あう。どっちもいや」
 お尻を押さえて物陰に隠れるミュウ。
「だったら覗かないこと」
「は〜い」
「それにしても……ふぁ〜う」
 柳華は欠伸を噛み殺す。バイト先で目がくらむような仕事をしたあとに自転車で全力疾
走した疲れがでてきたようだ。煉を見る。目を覚ますまでまだ時間はあるだろう。
―― いまの内に休んでおいた方がいいかな
 コタツの中に潜り込みながらベットの下から枕を取り出す。その枕にミュウが寝っ転が
った。
「ミュウもねる〜。なんだかつかれちゃった……くぅ〜」
 ミュウを端に寝かせて頭を置く。よほど体は疲れていたのか1分も経たずに柳華は眠り
に誘われた。

「すぅ……すぅ……うがっ! む〜……」
 煉はベットから落ちて目を覚ます。眼前に柳華の寝顔があった。
「のわっ!?」
 慌ててベットに跳び乗る。
「なんでこいつが……」
 しばらく柳華の寝顔を見つめていると、ぼんやりと記憶が甦ってきた。救急車を呼ぼう
としていた柳華を止めて円を呼ばせたこと。
 コタツの上に見慣れた紙袋があった。円がいつも使っている薬袋だ。
「……メシでも作るか」
 体はすこぶる調子が良い。といっても一時的だろう。なら調子がいい内に恩返しようと
キッチンに立つ。冷蔵庫を開けた。
「レトルトばかりだな」
 レトルトカレー、レトルトお粥、レトルトシチューが各々3個ずつあった。間違いなく
柳華の食事なのだろう。
 柳華は料理が壊滅的に下手だった。炊飯器を使ってもご飯を炭にし、みそ汁は蒸発させ
る強者だ。それを見せられて以来ずっと煉が作っている。
「やっぱレトルトより手料理だよな」
 レトルト食品を退かすとまだ賞味期限内の肉や野菜があった。
「メインは肉野菜炒めだな。あとは豆腐のみそ汁と……手早く作って寝るか」
 煉はフライパンに油をひき、鍋に水を注ぐと、手際よく料理を作った。

 柳華は鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いで目を覚ました。
「うみゅ〜……おにくのいためものとおみそしるのにおい〜」
 隣で寝ていたミュウも目を覚ましていた。彼女はふわふわ浮かび上がると、甘い蜜に吸
い寄せられる蜂のようにキッチンへ消えていく。
 起きあがった柳華はベットを見た。
「すぅ〜すぅ〜」
 煉は規則正しい寝息を立てていた。
「リュウカ〜。ごはんができてる〜」
「……煉〜っ」
 柳華は煉の頬をこれでもかというくらい引っ張った。
「ひたたたたた。にゃひひやはる!」
 半身を起こして煉が叫ぶ。
「……あんた、起きて料理作ったわね」
「む……」
 沈黙を肯定と受け取って伸ばしていた頬を捻った。続けざまにチョップを頭に叩き込む。
「お前は鬼か!」
「うっさいわよ! 40℃の熱出して唸ってた人間が料理なんてするなっての!」
「別に迷惑かけたわけじゃねえだろうが!」
「迷惑じゃないけど心配するじゃない」
「……すまん。調子がよかったし、レトルト食品じゃ味気ないと思ってな」
 柳華はため息を吐いた。
「過ぎたことこれ以上ウダウダ言っても仕方ないか。でも、この苛立ちどう静めようか…
…ああ!」
「な、なんだ。なに笑ってんだよ」
「うふふふっ。いいこと思いついたぁ」
 立ち上がってキッチンに向かう。冷蔵庫からレトルトのお粥を取り、水を入れた鍋に入
れた。
「お、おい。なに考えてる」
「うん?いまのあんたがもっとも嫌がること」
柳華はできあがったお粥を椀に入れて戻る。
「ま、まさか……」
「はい、あ〜ん」
柳華はお粥をすくって煉の前に出した。とたん、煉は顔を真っ赤にして首を振った。
「そ、そそそそそんな恥ずかしい真似ができるか!自分で食う!」
「却下。じっくり恥ずかしがって後悔しなさい」
「……食わん」
布団の中にもぐってしまう煉。
「あっそ。それなら雫さんを呼ぼっかな〜」
「やめろ!」
煉が布団から出てくる。
「じゃあ、観念しなさい」
柳華は勝ち誇った笑みを浮かべた。一度でいいからしてみたかったのだ。
「む〜……」
煉はスプーンと柳華をしばらく交互にみたあと観念したように口を開けた。スプーンを口
の中に入れる。
「どうどう? いつもとなんか違わない?」
「……レトルトは味気ない」
 ため息をもらす煉。無言で柳華は彼の頭を殴り飛ばした。
「病人になにしやがる!」
「うっさいわよ! あ〜あ、少しは期待したあたしが馬鹿だった」
「ああ? なんだってんだ……ったく。ほら、早くしろよ」
「え?」
 煉は口を開けて待っていた。
「こっちは腹が減ってんだよ」
「うふ。仕方ないな〜」
 機嫌を直して柳華はスプーンを煉の口へ運んだ。
「みゅふ。ふたりともらぶらぶ〜」
ミュウの呟きに2人の顔は瞬時に真っ赤になった。顔を見合わせる。
「お、俺たちが」
「ラブラブなんて……・ねえ」
「そ、そうだ。ミュウの目が腐ってんじゃないのか」
「みゅふみゅふ。ミュウはぜ〜んぶしってるの〜♪カガミさ〜〜〜〜ん」
 ミュウが右手をあげた。光の粒子が空中に集まって鏡を形作る。
『はぁ〜い。今日はどんなご用? ミュウちゃんの頼みならお姉さんなぁ〜〜んでも聞い
てあげるわ♪』
「ふたりがらぶらぶしてるとこがみたいの〜♪」
『お安い……ご・よ・う☆』
 色っぽい声で答えた鏡は白い壁に映像を投影した。ひとつの巨大セーターの中で身を寄
せ合う2人の姿だ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「な、なんてものぉぉぉぉぉぉぉぉぉお! す、すぐに消せぇぇぇぇぇえ!」
 煉はやめさせようと鏡に飛びかかった。しかし煉の手は鏡に触れることなくすり抜けて
しまう。目標を失った彼はコタツの角に額をぶつけた。
「あ、カガミさんにはさわれないよ〜」
 煉には聞こえていない。額を押さえて床の上を転がり回っている。
「は、早く消しなさい!」
「え〜。これみてるとミュウたのしいのに〜」
 指をくわえてミュウは映像を見た。
「こっちは恥ずかしいの!早く消さないと買っておいたヨーグルトあげないわよ!」
「ええ!?それいや〜。カガミさ〜ん」
『オッケー』
 映像が消える。ほっと柳華は胸を撫で下ろした。けれども胸の鼓動は高鳴ったままだ。
『他に何かお願いはある?』
「ん〜。いまんとこないかな♪またなにかみたくなったらよぶね〜♪」
『ミュウちゃんならいつでもオーケーよ。お姉さんは待っているわ〜〜〜』
 鏡は光の粒子となって消えた。
「ねっ、ねっ。らぶらぶ。レンとリュウカはらぶらぶ〜♪」
「でこぴん」
 額の苦痛から復活した煉がミュウの後頭部にでこぴんをはなった。布団の中に落下する
ミュウ。
「ふみゅ〜。ミュウなにもわるいことしてないよ〜」
「なら、これからはああいうことは悪いことだと認識しろ。次にやったらペットショップ
の爬虫類コーナーにいる蛇のガラスケースにぶちこむからな」
「あい」
 ため息をもらした煉が顔を上げる。目があった。
「あ……」
 クリスマスで寄り添った時を思い出してしまう。あれは我ながら大胆な行動だった。
「う……」
 煉も思いだしたのか顔を真っ赤にしている。それから逃げるように布団の中に戻った。
気まずい空気が流れる。どうにかしてこの状況を打破したかったが、気恥ずかしいせいか
良い考えが浮かばない。
―― 誰か来てくれればな〜
 すると、柳華の願い叶えるかの如く来客を知らせるインターホンがなった。
「あ、お客さん。ちょっと言ってくるね」
「……うむ」
 返事を聞いて玄関に向かう。鍵を外し扉をあけた柳華は笑顔のまま固まった。
「お邪魔したかしら」
 聖城大学演劇部部長・沢渡綾那が立っていた。

 絶対に何かに巻き込まれる。柳華は心の中で頭を抱えた。


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