第九話「類は友を呼ぶ?」

 土日。
 完全週休二日制であるアーマビリータ女学院は休み。生徒である棗も休み。そして、棗
が何もしないということは俺も休みだ。
 そう思っていたんだが……。
 屋敷内を自由に歩き回る許可を得た俺が部屋を出て10歩歩いた所で、
「おい、間抜け面で歩いてるそこの愚民」
 聞くもムカツク台詞を向けられた。拳を固めながら振り返る。
「……ん?」
 そこには誰もいなかった。
―― 空耳か? いや幻聴? そういや最近ロクなもん食ってないからな
 栄養不足で体がどうにかなっても編じゃない。どうにかしてまともな飯をゲットしなけ
りゃならんだろう。
「それには金を手に入れて外にでる方法見つけださねえとな」
 決意も新たに俺は踵を返して再び宛もなく歩き出す。
「妾を無視するでない!」
 再び声が聞こえたかと思うと膝裏を蹴られ、俺はバランスを立て直す暇もなく倒れ伏し
た。続けて後頭部に強い衝撃。
「ふっふっふ。妾を無視するとこうなるのじゃ。身をもって知ったのじゃらから二度とこ
のような事するでないぞ」
 何とも尊大な言い回し。
―― ふっ。棗でないなら誰だろうと怖くはない!
 勢いを付けて俺は身を起こした。
「うきゅ」
 何とも可愛らしい悲鳴。立ち上がってその発生者を見る。
「ガキ?」
 まだ本当に小さなガキだ。幼稚園、よくて小学生か。倒れて表紙に打ったらしい後頭部
をさすっていた。
「ふむ」
 転がっていたガキをつまみ上げてみる。
「くぅ〜。離せ離せ離さぬか〜〜〜!!!」
「ぴーぴーうるせえガキだな。どっから入った? ここは語るも恐ろしい冷酷問答無用や
やサド気味なお嬢様のお屋敷だぞ。見つかったらどんな地獄を見せられるか……おお怖っ」
「そんなのは知っておる! 妾を誰だと思うとるか!」
「……単なるチビガキだろ?」
「なんじゃと!? 妾は――!」
「騒がしいですね。いったい何を――恵(ケイ)?」
 部屋から出てきた棗がガキを見て眉を寄せる。
「おお。姉上ではないか」
「ここで何をしているの?」
 質問というより詰問。不満と苛立ちを存分に感じさせる声がガキに向けられた。
「決まっておろう。あの姉上が奴隷を購入したと聞いたので見に来てやったのじゃ。で、
どいつがそうなのじゃ?」
「貴女に教えるつもりなんてありません。さっさと自分の屋敷に帰りなさい」
「妾が姉上の命令を聞くとお思いで?」
 恵が嘲笑と挑発を同時に棗にぶつける。
―― 俺に摘まれたままってのが間抜けだがな〜
 二人はしばらく睨み合っていたが、やがて棗が観念したように嘆息した。
「そこの男です」
「なぬ? もしかして妾を摘み上げてる不届きなこの間抜け面がそうだというのか?」
「誰が間抜け面だ」
 さすがにムカッときた俺は恵の頭を軽く殴った。
「なあ、こいつお前の妹だろ? 何とかしろよ」
「ふぅ。暗部や保安部は何をしているのかしら。後で罰を与えなくてはいけないわね」
「ほっほっほっほ。今頃姉上のメイド共は妾の執事にコテんぱんにされとるじゃろうのう。
いかに姉上のメイド共が精鋭揃えとて我が執事−ゴウリキには敵うまいて」
「……そういうこと。戦闘中なら仕方ないでしょう。けれど、貴女を手中に収めた今は私
の勝利ということよ」
「そうはいかんのじゃ。ゴウリキ!」
 大声で恵が叫んだ刹那、背後で壁が爆散した。
「なっ!?」
 空いた壁の穴から入ってきたの身長2メートルを超えていそうな大男。頭が禿げてなけ
りゃ○ーミネーターかと思う迫力があった。いや、そっちよりも某漫画の○坊主と言った
方がわかりやすいだろう。
「ゴウリキ、この奴隷共々妾を外に運ぶのじゃ!」
 男は小さく頷くと、俺の襟首を軽々と掴み上げ、その巨体からは想像もできない速さで
外へと走り始める。
「お、おいおいおいおいおいおいおーーーい! 何で俺まで連れてくんだよ!?」
「どうやって姉上の心を鷲掴みしたのか知りたいからじゃ! 落ち着ける場所でゆっくり
と聞かせてもらうからのう。ほっほっほっほっほ」
 棗の妹・恵の年不相応の笑い声を聞きながら、俺はげんなりと俯いた。
―― 類は友を呼ぶっつうが……こういう場合は何て言うんだろうな
 そう思いつつ、俺は小さくなっていく屋敷を見た。
―― 厄介な事にならなきゃいいが。

「つうか、それは無理か」
 現在の状況こそまさに厄介ごとなのだから。

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