第六十二話「ストレス爆発」

 その他にも色々と『誤解』を受ける『事件』が多発し、疲れ果てた俺は商店街の一番奥
にある(反対側入り口の手前ともいう)喫茶店『道(ロード)』のテーブルに突っ伏してい
るわけだ。
「む〜〜」
 同じく疲れたのか隣に座っている恵もウトウトしている。
―― まあ、俺と晴香の子供だって誤解していた奴らに色々と叫んでたしな。
 『妾はあやつらの子供ではない!』とか『妾は彩樹の婚約者なのじゃ!』とか『生涯を
添い遂げる相手じゃ!』とか、終いには『近い内に妾は彩樹の子を産んでやるぞ!』なん
て大声で叫んでいやがった。
 どっちの噂も広がるだろうが、信じられるのは『ロリコン』疑惑の方だろう。最後の『叫
び』がトドメになったはずだ。
―― くそ〜。あの日から俺の人生滅茶苦茶だ。
 初めて棗と出会った日を思い出しながらため息をもらす。ふと目線を向かいに向けた。
―― 疲れてないのは晴香ぐらいなもんか。
 向かいに座っている晴香は暢気にメニューを見ている。
「ウチはクリームソーダでも飲もうかな。あ〜ちゃんはやっぱ100%オレンジ?」
「ああ。それでいい」
「恵ちゃん……は寝ちゃったからいいよね」
 そう言われて隣を見ると、ウトウトしていた恵は可愛い寝息を立てていた。
「ま、起きたら頼めばいいだろ」
「そだね。んじゃ〜……お、ロディがこっちきた。ロディ!」
「うげ。そうだった。そういやここにはあいつがいたんだっけか」
 絶対に騒がしくなるだろうと思った。
「ア〜HAHA! ジョハルいらっしゃい!オウ、ムロアーヤは久しぶりダネ! ソウソウ、
たったイマね、マスターからキイタよ。ムロアーヤとジョハルとの間にコドモできたって!
オ〜! この子ダネ! ベリィィィキューーーートッ! イツこんな可愛いコをメイクし
たのか教えてホシイよ! つうかオシエロよ!」
 案の定だ。やってきたウエイトレス−『エセロディア=ワロウート』−は騒音としか思
えない音量で話しかけてきたかと思うと、俺の両肩を掴んで前後に揺らしてきた。
 ちなみにムロアーヤは室峰彩樹をこいつなりに変換したらしい。で、ジョハルは女晴香
だからだそうだ。春賀の事はダハルと呼んでいる。
 不本意だが親しい部類の顔見知りだった。
「ええ〜い、やめい!」
 揺れから逃れる為に両肩を掴んでいる手を叩く。
「オウ、ご〜めんなサイよ」
「相変わらずテメエはうるせえな」
「ハハハハ〜HA! それがロディのチャームポイントだからネ!」
 腰に手を当ててロディはニカッと笑う。
「ウィークポイントの間違いだろうが。それと、言っておくがこいつは俺と晴香の子供じ
ゃねえからな」
「ナンデスト!? それだとアレか! 『ムロアーヤがロリコンだよ!』って噂が本当だ
ったのカヨ!? オーマイGOD! ロディ、カナシいよ! まさか……まさかムロアー
ヤがロリーーーーーーーーーだったナンテ!」
 ロディの大声が店内中に響き渡る。店内にいる8人の客。
―― 聞かれた。
 これでまた『ロリコン疑惑』の信憑性が世間で増すことだろう。さっきまでなら必死で
誤解を解いていただろうが、もう誤解を解くのも悲しくなっていた。
―― どうせまだ誰かが広めるだろうしな。
 と。
「おい、ロディ」
「なんダヨ、ロリアーヤ!」
 その言葉で堪忍袋の緒がプチリと切れた。
―― ぶっ飛ばす。
 まず立ち上がり、俺の行動に小首を傾げるロディの頭を掴むと渾身の頭突きを脳天に叩
き込んでやった。
「OUCH!」
「な〜ん〜ど〜も〜い〜わ〜せ〜る〜な〜〜〜〜〜〜!」
 よろめいた首もとめがけてラリアート。
「ごふっ!」
「お〜〜れ〜〜〜は〜〜〜〜!!!」
 倒れたロディの足を掴み、
「ロリコンじゃね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜え!」
 そのまま四の地固めを決めた。
「んぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ!!」
 店内にロディの絶叫が轟いた。
「わかるか? わかるか! 言われもない噂を広められた俺の苦しみとストレスがよ! 
ロリだなんて……ロリだなんてあるはずがないってのに! お前だってショタとか噂され
たら嫌だろうが!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉ! あ、ロディは年上年下どっちもOKだから別にカマワないよ。オサ
ナイ子を誘惑……ハイトク的ぬぉぉぉぉぉぉお!」
「どう〜〜〜して俺の周りにはこんな連中しかいねぇんだ! 唯一の常識人は母さんとあ
のんだけじゃねえか!」
「運命と思って諦めればいいじゃん」
 テーブルの上で頬杖をつきながら晴香がケラケラ笑う。
「諦めたくねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ノォォォォォォォォウ!」
 俺とロディの叫びが同時に轟く。
 それから5分ほどロディに苦痛を与えたあと、どっと疲れた俺はテーブルにまた突っ伏
すこととなった。
 そして、俺が突っ伏してから5分ぐらい経った頃だろうか。
「ねえ、あ〜ちゃん」
 妙に甘ったるい声。
「何だよ」
 顔を上げると目の前に晴香の顔があった。
「ウチにあ〜ちゃんの子供産ませてみない?」

―― マタコイツハトンデモナイコトヲクチバシリヤガリマシタヨ。

む〜彩樹の子を産むのは妾じゃ〜〜むにゃむにゃ。


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