第四十三話「過去での邂逅−@」

 屋根の上に出た俺はすぐさま棗の姿を探した。
「いやがった」
 屋根の右角端。あと1歩でも動けば落ちる場所に立っていた。じっと下を見たまま動か
ない。
―― 今の内に取り押さえてやる。
 気付かれないよう足音を立てずに近づこうとしたが、さすがに無理だった。瓦が小さく
音を立ててしまう。音に気付いた棗が振り返った。
 その顔には未だに涙の後が残っていた。
「何しにここへ?」
「馬鹿なお前を止めに来たんだよ」
「なぜ? 私が死ねば彩樹は自由になるのよ?」
「そんな解放じゃ後味悪くて仕方ねえだろうが! それに飛び降りたって死ねねえよ。ど
うせメイド女達が受け止める準備をしてるはずだ」
「……そうね。私としたことが考えが浅はかでした。それなら――」
 服の袖で涙を拭った棗は懐から自動拳銃を取り出して自分のこめかみに向けた。
「これなら確実に死ねるでしょう」
「どうせ弾入って――」
 俺の声をかき消して一発の銃声が届く。間を置かずして棗の足下の瓦が粉々に砕けた。
「……本気で死ぬつもりなのかよ?」
「法光院の者は嘘は言いません」
「じゃあ、やっぱアレも本当だったんだな」
「……ええ」
「理由、聞かせてもらえるか?」
「理由?」
「どうして俺なんかを『愛した』かを、だよ」
 全然思いつかなかった。
 強制的に出会ってまだ2ヶ月。まさか一目惚れってわけでもないだろう。
「幼い頃……そう、幼稚園に通っている頃を覚えていますか?」
「おぼろげには」
「そう。けれど、私は今でもハッキリと覚えています。貴方と初めて出会い、争い、負け
て、そして……決縁者となったあの頃を……」
「つまり俺とお前はかなり昔に会ってるってことか」
 静かに棗は頷いた。
「その時の事を聞かせてほしい?」
「ぜひとも」
「なら、死ぬ前に聞かせてあげます」

―― そう、12年前。彩樹と私が初めて出会い、決縁者となった日の事を……。

貴方達にも聞かせてあげます……彩樹と私の出会いの物語を。

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