第百四話「第一の壁 其の六」

 外に出た俺はすぐさま茜と火守の姿を探し、駐車スペースから少し離れた所にあるベンチの
上で膝を抱えている火守を見つけた。
「まだ自己嫌悪に浸ってんのか。って、何か横におまけがいるし」
 近づいた俺は火守の隣で同じように膝を抱えているメイド女を見る。顔は俯いていないが、
長い前髪に覆われて表情を窺うことはできない。
「そもそもお前誰だよ? 着てる服からして玲子の同類ってのはわかるけどよ」
 火守に声をかけようかと思ったが、茜が相手をしているのでメイド女に話しかける。
「……ミナなの。見るの見と無しって二文字でミナ。ナンバー37」
 小声だが澄んだ声で名前を口にした見無が見上げてくる。その拍子に流れた前髪の合間から
見えた瞳に暗部メイド特有の俺に対する敵意の色は全くない。
「何で火守を襲った? まさか棗の指示ってわけじゃないだろ」
 妙な違和感を感じながらも俺は見無に問いかけた。
「ミナ独自の判断なの。あのままじゃ貴方が危険だと判断した」
「つまり俺を助けようとしたと?」
 俺の言葉に見無は頷く。表情からは読み取りづらいが、嘘を言っている感じはない。
「玲子と同類ならむしろ願ったりな展開だったと思うけどな。実は最初から俺狙いだったんじ
ゃないのか?」
 が、すぐに結論付けるのも早いと思い、更に突っ込んだ問いをぶつける。
「ミナはレイちゃんとは違う。今、ミナ達は二つに分かれてるの。貴方を否定的に考えている
レイちゃん達と貴方を肯定的に考えているミナ達に」
「……は? 俺を認めてる暗部メイドがいるってのか?!」
 あまりにも予想外な内容に思わず聞き返してしまう。
「そう。肯定派は貴方への嫉妬よりお嬢様の幸せを優先することを選択したの。だから、私た
ちは貴方に危害を加えないし、危険から守ろうとするのは当たり前」
「肯定派を作るとか、よく玲子のヤツが許したな」
「レイちゃんもお嬢様の幸せを願ってるの。目的は同じなのだから反目する理由ない」
「ま、確かにそうだな。んで、あの行動ってわけか。しっかし、もう少し穏便に済ませようと
は思わなかったのか?」
「人間1度痛い目を見ないと考えを改めないの! 約束を破るような奴はと・く・に!」
 鼻息を荒くしながら、隣にいる火守に向かって鋭く言い放つ。俯いたままの火守がピクリと
身を震わせるのを見て、見無はしてやったりと口元を緩ませる。
 当然ながら茜が怒気をはらんだ目を見無に向けたが、向けられた本人は臆する所か逆に斧を
手にして挑発するので頭に軽くチョップを叩き込む。
「何するの!」
 頭を押さえながら見無が抗議の声を上げる。前髪の合間から不満に満ちた涙目が俺を睨み付
けてきた。
「これ以上ややこしくするのはやめろ。つうか、お前らは暴力以外で解決できないか考えろっ
ての。今回だって斧振り下ろすんじゃなくて縄で縛るとか別の方法があったんじゃないか? 
手違いで当たり所間違えてたらヤバかったぞ」
「ミナ、そんな失敗しない。ちゃーんと刃は潰してあるものだし、ちゃーんと壊しても治しや
すい場所を狙ったもん」
 頬を膨らませながら見無はそっぽを向く。
 まるでやんちゃな子供を相手している気分になって、妙な疲れがどっと押し寄せてきた。
「頼むから、基本は捕縛とかで壊す手段は最終手段にしてくれ」
「むー。捕縛とか苦手なの。やるなら斧とかハンマーとかじゃないと調子でないの!」
「もっと安全な物を使えよ」
「んー……、譲歩に譲歩してピコピコハンマーで殴るってのはダメ?」
「オモチャで無力化できるのか?」
「お嬢様に特注品作ってもらうの。む、各個人専用の無力化兵器とか格好いいかも!」
 手を口に添えたまま、見無は悪巧みを考えついた子供のような笑い声を漏らす。
―― できあがったら、どうやって無力化するか確認する必要があるな……。
 頭痛の種が増えた事にため息を漏らしつつ、未だに動きのない火守に顔を向ける。俺と見無
があれこれやってる間も茜が声をかけていたらしいが、未だに膝を抱えたままだった。
―― さて、どうしたもんか。
 このまま放置して邸に戻るというのも後味が悪い。かといって、気持ちの整理がつくまで待
ってはいられない。
「自己嫌悪に浸ってるところ悪いが、こっちものんびりしてる訳にもいかないんで、さっさと
勝者の権利を使わせてもらってもいいか?」
 となれば強引にでも行動するようにと俺は話を振る。
 反応はすぐにあった。
 小さく身じろいだ後、バネ仕掛けのオモチャの如く勢いよく立ち上がったかと思えば、帯を
ほどいて胴着を脱ぎ捨てた。
「何を錯乱してんだ、お前は!」
 更にTシャツまで脱ぎ出そうとした火守の脳天に思わずチョップを叩き込む。
「勝者の権利使うって言ったのは君じゃないの!」
「何で勝者の権利使うとお前が脱ぐ事になるんだよ!」
「ボクの一生を左右するかもしれない命令なんて、ボクの初めてうば―」
「はい、残念! それはお前の思い込みでした! ノミサイズ程にもそんな命令をする気はな
いんで、さっさと着ろっての! んで、着たら座れ!」
 2発目の脳天チョップを叩き込んで黙らせると、目尻に涙を浮かべた火守に胴着を投げ渡
し、有無を言わさず命令する。
「……お前さ、何か妙に視野が狭くねぇか? 誰も彼もがお前らを利用とか、体や金目当てな
はずねぇだろ」
 火守が胴着を着終えたのを見計らって話しかける。
「25人」
 嘆息混じりに火守がそう口にした。
「何の人数だ?」
「今年の新入生で奴隷に騙されてた人数。イコール、ボクが病院送りにした人数。今年の新入
生は60人だから半数近くがボク達を利用としたか、体や金目当てだったってわけ。去年は70
人中20人だったかな。どいつもこいつも、問い詰めたら気持ち悪い笑顔で助けて〜って哀願
してきてさ、気がついたらタコ殴りにしてたってわけ。……どう思う?」
「……お前ら騙されやすくないか?」
 3割近い人間が騙されていた、しかも騙していたのが奴隷という事実、それが自分は違うと
説得する糸口を早々に断ち切ってくれている事に頭が痛くなってきた。
「だから言ったじゃないの、純粋培養な子が多いってさ。特に騙されてた子達は小さな頃に親
から引き合わされて、今日まで一緒に育ってきたんだしね。だから事情を説明しても、みんな
自分の家族が裏切るはずがないって信じなかった。だからタコ殴りした後で本人に説明させた
の。……騙されてたって事を理解した子は泣いてた」
 その時を思い出して鬱屈としたのか、火守の口からため息が漏れる。
 対して俺は火守が口にした一言に驚きを隠せなかった。
「奴隷を家族って思う奴がいるんだな」
 お互いを家族以上に想っている連中をひと組知っているが、あれは例外中の例外だろう。
「増えつつあるけど、まだまだ少数派だね。大多数は奴隷は従えるものであり、優秀な奴隷を
従えることが自らの質を示すって考えてるよ。そういう連中の方が裏切られるんじゃって考え
るのが普通だけど、そういう子ほど隙がない」
「むしろ、そうなったらなったで邪魔して楽しむ連中もいそうだな」
 脳裏に裏切ろうとする奴隷の行動が尽く失敗し、その報告を聞いて実に楽しそうにほくそ笑
むお嬢様の図が浮かんだ。
「かもね。あと勘違いしてるかもしれないけど、奴隷をイジメたりして楽しんでる子は龍泉を
除いていないから。基本的には上司と部下、雇う側と雇われる側だよ。普通の会社と違う点は
転職・退職不可、就職先は選べないってところ。代わりに衣食住は保証、福利厚生有り、給与
は一流企業並、終身雇用で退職金も有りの好待遇」
「話だけ聞くと、デメリット込みで美味しい仕事に聞こえてくるな」
「奴隷って呼ばれることが我慢できれば、これ以上に美味しい仕事ないと思うけど。ただ、な
りたくても見初められる為の努力と技術が必要だよ」
「そういや、養成校があるって聞いたが厳しいのか?」
「経歴に黒い部分がなけりゃ入るのは簡単。けど、卒業には血を吐くような努力が必要って聞
いたことがある。場所によっては中退率99%ってところも」
「んで、その狭き門をくぐり抜けた努力をかなぐり捨ててまで裏切った連中の言い訳は?」
「色々あったけど、総じて奴隷っていう立場からおさらばしたかったらしいよ」
「おさらば?」
「従う側から従える側になりたかったんだってさ。とりあえず、入れ知恵した奴がいたから、
そいつ共々人間サンドバッグにしてあげたけど」
 瞳と声に元気を取り戻した火守が振り上げた拳を振り下ろす。
 病院送りにしたのだから1発で済ませたはずもないのだろうが、相手の自業自得なのでいい
気味だとしか思えない。
「ちなみに、体目当ては相思相愛だったっていうのはなかったのか?」
「残念だけどゼロ。お嬢様側は家族としてしか見ていなかったって。ま、普通はいないよ」
「普通は……そうだよな」
 期待を裏切られて僅かに落胆しつつも、例外の1組を再び思い出してそれを打ち払う。
 と、顔を上げた俺に対して火守が鋭く指を突きつけてきた。
「わかってる? キミがその普通じゃない例のひとつだってこと。今頃、法光院さんはキミの
帰りを今か今かと待ってるんじゃないの?」
「あー」
 指摘されて頭に浮かんだのは、苛立ちと心配の入り交じった表情で俺の帰りを待つ棗の姿。
帰ったら間違いなくそんな素振りは見せずに『随分遅いご帰宅だこと』という嫌みを投げつけ
てくるだろう。時間的に夕食なので、詫びとして『夕食を食べさせて』と言ってくる可能性が
高い。そして、食べさせるとご満悦の表情を浮かべてくれるだろう。
「嬉しそうな顔しちゃってさ」
 小さな嘆息の後に微笑を浮かべながら火守は肩をすくめる。が、それも一瞬のこと、自らの
両頬を2度ほど叩いてから真っ直ぐ俺を見据えてきた。
 向けられる瞳に対面した当初あった敵意は一切ない。
「……ボクは戦って、言葉を交わしてキミは信じられる人物だって判断した。これ以上、キミ
に対して危害を加えないって約束する」
「ってことは、俺への疑惑は解消されて無罪放免って思っていいのか?」
 わずかな期待を込めた俺の言葉に、火守は首を横に振った。
「あくまでボクだけ。残りの3人は独自に動いて判断すると思う」
「……だよなー」
 そう簡単に全て解決するとは思っていなかったが、わずかでも期待してしまったので落胆せ
ずにはいられなかった。
 とにかく、火守の言葉通りならあと3回、どういう見極め方法なのかはわからないが風紀委
員と対決して勝つ必要があるわけだ。
 どんな対決方法になるかわからない、でも間違いなく面倒な対決になるだろう。そう思うと
口からは自然とため息がもれた。
「頑張りなって。弱点とかは言えないけど、腕力勝負はないってことだけは保証するからさ」
 ケラケラと笑いながら火守が肩を何度も叩いてくる。
「腕力勝負の方が対処しやすいから望む所なんだが」
「ま、数日は襲わないように釘は刺しておくからさ」
「助かる。さすがに腹に風穴開けられた翌日に二戦目ってのは辛すぎるしな」
「うぐ……、それはその……ごめん」
 俺の言葉に笑顔を消して火守は顔を俯かせる。
「き、気にするなって、勝負方法は俺が決めた事で、こうなるのは最初から織り込み済みだ」
 マズイと思った俺は火守の肩を軽く叩いてフォローした。
 真面目な奴ほど気分が落ち込むと後を引く。根が真面目なハルなんかは落ち込むと登校拒
否、食事拒否等を発動させていた。
 ちなみにハルへの対処は、復活するまで学校には俺と晴香で宇宙人よろしく強制的に連行
し、食事は俺が口をこじ開けて晴香が料理をねじ込んでいた。
 ハルでそうなるなら、輪をかけて真面目な火守だとどうなるかわからない。
「で、でもさ…」
「負けた後で誤解とわかったパターンだったら気にしろって言っただろうけどよ。こっちは作
戦通りに行動して勝ったんだから、後腐れなく終わりにしたいって思ってる。だから、気にす
るな」
「……やっぱ、キミって良い奴だね」
「無意識に傷口に塩を塗るような奴だけどな」
 自嘲を含めた俺の答えに、火守は笑う。
「んで、話が逸れてたけど、意地悪なキミはボクにどんな命令をするつもり?」
「ああ、そうだった。勝者の権利を使うって話か」
「今なら気分いいから、ちょっとエッチな命令でもいいよ?」
「お前を裏切ったバカの居場所を教えろ」
「うわ、スルーされた……って、え?」
 俺の命令に、火守は予想通りの反応を示した。隣にいる茜も同様に何故という目を俺に向け
てくる。
「だから、お前を裏切ったバカの居場所だよ」
「な、何で? ボクに対する同情? それとも――」
「お前への同情でも、気を引きたいのでもないっての。単にお前を裏切ったバカに腹が立った
からだ」
「腹が立ったって……君には何も関係ないじゃない」
「関係大ありだろ! そいつのバカな裏切りがなけりゃ、お前は茜と出会わなかった、強くな
りたいと思わなかった、そして奴隷を悪と決めつけて俺と戦う事もなかったはずだ! つま
り、本を正せばお前を裏切ったバカが悪いってことになる!」
 これが俺の出した結論であり、風紀委員達との敵対関係を改善する二歩目だった。
 一歩目は俺が裏切っていない事を戦って示すこと。二歩目は同じ奴隷として裏切ったバカを
罰して、『奴隷にも裏切りを良しとしない者』がいるとを示すこと。
 二歩目が成功して風紀委員と奴隷で協力関係が結ばれれば、奴隷からの情報提供でボコって
確かめる率は軽減され、完璧じゃないが奴隷側としても裏切りにくい環境になるはずだ。
「後は個人的に家族を裏切ったそのバカを殴りたいってのもあるけどな。ほら、早く教えろっ
て。敗者は勝者の言うことを聞くんだろ?」
「……そうなんだけど、さ」
 口ごもりながら火守は茜と顔を見合わせる。
「ん? 実はまだ情が残ってて言えないってか?」
「ないない。これっぽもちもない」
「じゃあ、すぐに答えられるはずだろ。お前の事だから同じ事をしでかさないか監視してるだ
ろうし」
「いやー、それがさ……監視とか全然してないから、居場所とかわっかないんだ、あはは」
「……はい?」
 予想外の回答に俺の背後で計画の二文字がガラガラと崩れる音がした。
「あの、……何で?」
「裏切ったそいつを父さんは即座に殺しちゃったんだ」
「こ、殺した?」
「そ。といっても命までは取らないよ。解雇に加えて戸籍の抹消、口座凍結、周囲の会社に危
険人物として情報提供ってな具合に社会的に抹殺したの」
「け、けどよ、そのバカが復讐とか考える可能性があるから、お前の親父さんは居場所を把握
してるってことはないのか?」
「多分、ないと思うよ。話には続きがあってさ、裏切りを聞きつけた養成校の校長が謝罪と裏
切ったバカを島流しにしたって報告にきたんだ」
「島流し?」
「詳細はわからないけど、養成校の監視下にある場所に永久隔離ってこと。つまり、どこにい
るかは養成校のみぞ知るってね。仮に場所がわかったとしても中には入れないと思うよ」
「マジかよ……」
 計画していた二歩目は完全にご破算という現実に、俺はその場に膝をつく。
「命令が無駄に終わったからって、そんなに落ち込まないでって。ほら、今のノーカンでいい
からさ」
「そういう理由で落ち込んだんじゃねぇよ!」
「なら、何で両膝つくほど落ち込んでるの?」
「……ま、お前ならいいか」
 どうせ提案するつもりだったし、信頼を勝ち得た今なら都合が良いと思い、二歩目と協力関
係について話して聞かせた。
「うん、ダメだね」
 聞き終えた火守は即座に両手をクロスして否定的な言葉を返してくる。
「案としては良いかもしんねぇけど、オレも主と同意見だ」
 今まで黙っていた茜にも否定される。
「何でだよ?! 協力関係結べば被害に遭う奴は絶対に減らせるんだぞ?!」
「その方法は否定しないよ。良い案だって思うし」
「なら、何でダメなんだよ!」
「あのさー、その提供される情報の信頼性って誰が保証するの?」
 火守のその一言に俺は言葉を失った。
「ねぇねぇ、情報提供者がボク達の敵じゃないってだ・れ・が保証してくれるのかなぁ?」
 黙ったままな俺の頬を火守はオモチャを見つけた子供の様な笑顔でもって、人差し指でグリ
グリと抉ってくる。
 何も返すことができなかった。盲点、というよりも俺の考えが浅すぎた。
―― 火守の言う通りだ。提供された情報が全て正しいと断言できるか?
 できるはずがない。情報攪乱、冤罪、悪戯、何れかの可能性は捨てきれない。
―― かといって調べていたら手遅れになる。正しい、信頼できるだけの情報がほしい。
 そこまで考えて火守達が抱えてる問題が情報がない事ではなく、信用できる相手がいないこ
となのだという事に気づかされる。
「ああ、くそ!」
 自分の浅はかさが許せず、拳を地面に打ち付ける。しかし、地面に赤いシミができるだけ
で、痛み止めが期待していた痛みは伝えてはくれない。
 何だか色々やってられない気分に満たされ、立ち上がるのも面倒になった俺は、その場で仰
向けに寝転んだ。
「事の本質に気づいたって解釈してもいい?」
「……ああ」
「対応策は?」
「わりぃ、今は頭ん中ぐちゃぐちゃで、すぐには思いつきそうにもない」
「……そんなら、さ。あたしに良い案があるんだけど、聞いてみる?」
 そう言いながら火守が俺の顔を覗き込んでくる。妙に距離が近いので、反射的に体を下にず
らしてしまった。
「き、聞かせてくれ」
「よろしい。要は信頼性の問題なわけよ。情報というよりも情報提供者のね」
「それは理解してるって。んで、解決策は?」
「ここにいるじゃないの、ボクが信頼した人物がひとりさ」
 笑みを浮かべた火守が俺の鼻に人差し指を突きつけてくる。
「つまり、君が情報を集めて提供してくれればいいってこと。ボクはキミを信頼して行動す
る。どう? キミが望んだ展開だよ」
「けどよ、俺如きが手に入る情報なんてたかが――」
「それはキミ次第でしょ。キミには仲間がいて、優秀なご主人様がいる。情報は集められると
思うけど?」
 火守の解決策は確かに有効だろうと思った。
 棗に頼めば玲子達が動いて情報をかき集めてくれるはずだ。縁や桜も協力してくれるだろ
う。そして、体制が整えばすぐさま裏切りが暴かれ、裏切り者は罰せられ、そして不幸なお嬢
様はいなくなる。
 火守達の望んだ平和な学園が築かれるのは間違いない。但し、問題がひとつ。
「けどよ、棗が卒業した後はどうするんだよ?」
「それは宿題ってところだね。方法は色々あると思うけど、ボクとキミだけで決めるわけにも
いかないし、キミには残り3人に認められるのが先決だしね」
「ああ、そうだった……」
 忘れていた難題を思い出し、俺は大きくため息を吐く。
 そんな俺の肩を何度とか叩いた後、
「ま、キミがまず考えなきゃいけないのは、帰宅を待つご主人様に対しての謝り方かもね」
 ニヤニヤと笑いつつ、火守は最も大きな難題を思い出させてくれるのだった。

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